2026/04/14 14:20

「アナエロビック」「カーボニックマセレーション」——スペシャルティコーヒーの世界でここ数年、急速に広まった言葉です。
飲んだことがある方は分かると思いますが、最初の一口で「えっ、これコーヒー?」と思うほど、花やフルーツのような香りが広がります。なぜ、これほどまでに香るのか。その仕組みと、疏水焙煎所で扱っているCM系の豆を紹介します。
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カーボニックマセレーション(CM)とは
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もともとはワイン醸造の技術です。ブドウを房ごと密閉タンクに入れ、炭酸ガスで満たした状態で発酵させる製法で、フランスのボジョレー地方が発祥とされています。この方法で作られたワインは、通常の醸造よりもフルーティで軽やかな仕上がりになります。
コーヒーの世界でこの技法が応用されはじめたのは2010年代後半のこと。コーヒーチェリーを密閉タンクに入れ、炭酸ガスや窒素で酸素を遮断した状態で発酵させます。酸素のない環境では、通常とは異なる微生物が活性化し、豆の内部に特有の有機化合物が蓄積されます。これが、あの華やかで複雑な香りの正体です。
【CMとアナエロビックの違いは?】
厳密には、「アナエロビック(嫌気性発酵)」は酸素を遮断した発酵全般を指し、「カーボニックマセレーション」はその中でも炭酸ガスを積極的に充填する手法を指します。ただし現場では混在して使われることも多く、両者を明確に区別しない生産者もいます。共通しているのは「密閉・低酸素環境での発酵」であり、生まれる風味の方向性は同じです。
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CMが生む味わいの特徴
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通常のウォッシュドやナチュラルと比べると、CM精製の豆には以下のような傾向があります。
香りの強度が格段に上がります。発酵中に生成されるエステル類(果実香の元となる化合物)が通常より多く蓄積するため、開封した瞬間から香りが立ち上がります。「コーヒーとは思えない」という感想が出るのはこのためです。
甘みとボディが増します。低酸素環境での発酵は、酸の分解を促します。これにより鋭い酸味が丸くなり、代わりに甘みとまろやかなコクが前面に出てきます。
フレーバーの複雑さが増します。密閉タンク内での発酵日数・温度・加えるガスの種類によって、生産者ごとに異なるフレーバープロファイルが生まれます。「同じCMでも全然違う」と感じるのはこのためです。
※一方で、CM精製は管理が難しく、失敗すると過発酵による不快な味(アルコール臭、腐敗臭)が出ることもあります。品質の安定したCM豆を選ぶことが重要です。
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疏水焙煎所のCM・アナエロビック豆ラインナップ
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当店で扱っているCM・アナエロビック系の豆を、入門〜最上位の順に紹介します。
【入門→最上位の流れ】
ミャンマー オレンジサンシャイン(¥1,210〜)
↓ コロンビア ピンクブルボン(¥1,540〜)
↓ エチオピア コチャレ 7Days(¥1,790〜)
↓ コロンビア レッドフルーツ(¥2,680)
↓ コロンビア パッションフルーツ(¥2,680)← サントゥアリオ農園 最高峰
▶ ミャンマー オレンジサンシャイン(アナエロビック ウォッシュド)¥1,210〜 ← 入門に
CM・アナエロビック系を初めて試すなら、まずこれです。ウォッシュドベースなのでクリーンさを保ちながら、オレンジのようなジューシーな酸味が広がります。価格帯も手頃で、アナエロビック入門として最適。
精製:アナエロビック ウォッシュド 焙煎:ハイ
苦み:★★☆☆☆ 酸味:★★★★☆ 甘み:★★★☆☆
▶ コロンビア ピンクブルボン(アナエロビック ナチュラル)¥1,540〜
密閉タンクで7日間発酵後、24〜28日かけてナチュラル乾燥。超高級ロゼワインのような华やかさ。自然変異の希少品種「ピンクブルボン」の個性とアナエロビックが重なった唯一無二の一杯です。
精製:アナエロビック ナチュラル 焙煎:ハイ
苦み:★☆☆☆☆ 酸味:★★★★☆ 甘み:★★★★★
▶ エチオピア コチャレ 7Days(アナエロビック ナチュラル 7日間)¥1,790〜
7日間の密閉発酵。発酵中の温度・湿度・pH・TDSをすべて計測管理するベロヤ・ウォッシングステーションの仕事。開封した瞬間の爆発的な香りは他の豆とは次元が違います。
精製:アナエロビック ナチュラル 焙煎:ハイ
苦み:★☆☆☆☆ 酸味:★★★★☆ 甘み:★★★★★
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サントゥアリオ農園のCM——当店が誇る最高峰の2本
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コロンビア カウカ県ポパヤン、標高1850〜2100m。農園主カミーロ・メリサルデ氏が1999年から「至高のコロンビアマイルド」を目指して一から設計した農園、それがサントゥアリオ農園です。
播種から収穫、精製にいたるまで独自の高品質マニュアルで管理し、スペシャルティコーヒーの世界で世界的な評価を受けています。当店がCM豆の最高峰として位置づける2本は、どちらもこの農園から生まれています。
▶ コロンビア レッドフルーツ カーボニックマセレーション ¥2,680 ← 最高峰
品種はレッドブルボン。ナチュラルベースのカーボニックマセレーション精製が生む、ラズベリーのような鮮烈な香りと味わいは「コーヒーの概念が変わる」という体験そのものです。「最先端か、邪道か」とコピーにある通り、賛否が分かれる個性の強さがありますが、それがサントゥアリオCMの醍醐味でもあります。浅煎りが苦手な方でも美味しく飲めるバランスに仕上がっています。
農園:サントゥアリオ農園 品種:レッドブルボン 精製:ナチュラル CM 焙煎:ハイ
苦み:★☆☆☆☆ 酸味:★★★★☆ 甘み:★★★★★
▶ コロンビア パッションフルーツ カーボニックマセレーション ¥2,680 ← 最高峰
品種はイエローブルボン。同じサントゥアリオ農園から、フルーツをCMの媒介として用いた精製によるパッションフルーツそのものの香りと味わい。レッドフルーツが「赤い果実の濃厚さ」であるのに対し、パッションフルーツは「熱帯フルーツの華やかさと甘酸っぱさ」。同じ農園・同じ製法で品種とフルーツを変えることで、これほど異なる個性が生まれることに驚きます。
農園:サントゥアリオ農園 品種:イエローブルボン 精製:ナチュラル CM 焙煎:ハイ
苦み:★☆☆☆☆ 酸味:★★★★☆ 甘み:★★★★★
【2本の飲み比べがおすすめです】
レッドフルーツとパッションフルーツは同じ農園・同じ製法で品種だけが異なります。「レッドブルボン vs イエローブルボン」という品種の違いがフレーバーにどう現れるかを体験できる、他にない飲み比べとして楽しめます。
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CM豆を美味しく飲むために
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湯温はやや低め(88〜91℃)が安定します。高温で抽出すると発酵由来の酸が立ちすぎることがあります。
焙煎後3日〜2週間がピークです。当店は焙煎当日に出荷しているため、届いてから2〜3日置いてから飲むとガス抜けが進んで味が落ち着きます。
金属フィルターで香りをフルに楽しめます。ペーパーが香気成分の一部を吸着するため、CM特有の複雑な香りを最大限に楽しむなら金属フィルターのフレンチプレスやエアロプレスも試してみてください。
※以上はあくまで傾向です。器具・豆の状態・好みによって最適解は変わります。自分なりの「この豆の飲み方」を見つけることもスペシャルティコーヒーの楽しみ方のひとつです。
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サントゥアリオ農園のCM豆は数量限定です。気になる方はお早めに。
